フランツ・リスト『巡礼の年』をもっと楽しもう!

村上春樹新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』で大注目のフランツ・リストの『巡礼の年』、CDが再販されるとのこと。すごい影響ですね!
でも、今回の『巡礼の年』も、前作『1Q84』で注目されたヤナーチェックの『シンフォニエッタ』と同様、誰でも必ず聴いたことがある!というような曲ではないんですよね。今までクラシック音楽に興味のなかった方が、小説をきっかけにクラシック音楽を聴いてみよう!と思っても、なんだか馴染みのない曲ばかりで…となってしまってはもったいないなあ、なんて勝手に思ってしまっています。
そこで!せっかくなので『巡礼の年』の全曲をじっくり聴いてみませんか?というお話です。
曲のタイトルを見るだけでもう、聴いてみたくなっちゃうというか旅行したくなっちゃうというか、すてきな曲集です。
第1年/スイス
ウィリアム・テルの聖堂
出だしから低音が響く、いかにも「聖堂」らしいおごそかな曲です。聖堂行ったことないですが。似たようなフレーズが続くんですけど、聴いていて飽きない一曲じゃないかなあと思います。素人(わたし)が弾くと、中間で指がつりそうになります。
ワレンシュタットの湖で
この曲だけではありませんが、リストの「水」をモチーフにした曲ってびっくりするくらいに美しいです。3分程度の短めの曲ですし、特に聴きやすい一曲かと。
田園曲
邦題は、7曲目と同じ「牧歌」が使われることもありますが、こちらは「パストラール」というタイトルによりちかい「田園曲」。
2分以内の短い曲なので、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の後半で登場したアルフレッド・ブレンデル版と聴き比べるのも楽しんじゃないかと思います。個人的に、テンポのはやい曲はこちらのほうが好きだったりします。
泉のほとりで
前回の記事で、わりと耳にする機会があるかもと少しご紹介した一曲です。美しい。
夕立
「嵐」という邦題が使われることが多いですが、ラザール・ベルマン版の邦題は「夕立」。ちょっと不安なきぶんになるけれど好きな一曲。
オーベルマンの谷
15分くらいの、かなり長い一曲です。
19世紀前半にヨーロッパに自殺熱をもたらしたセナンクールの小説『オーベルマン』に着想を得て、主人公の苦悩や感情の移ろいを描いている。
Wikipediaより
とのこと。この小説『オーベルマン』って、とってもとっても乱暴に紹介してしまうと、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』みたいなお話です。そういう感じの苦悩。
牧歌
こちらの牧歌は「エクローグ」というタイトルの邦題です。『オーベルマンの谷』と『ル・マル・デュ・ペイ』に挟まれた明るい一曲。そして左手がいたくなる一曲。
ノスタルジア(ル・マル・デュ・ペイ)
『多崎つくる』のシロがよく弾いていた、という描写などで何度も登場する、作品のキーワードとなる曲。
明るい曲なのかな?と思いきや、ひどく物哀しいフレーズが続いたりもする、かなり印象的な一曲です。
この曲をよく弾いていたっていう描写、あまりイメージができないんですよね。例えば「ピアノの上手な子が『エリーゼのために』をよく弾いていた」みたいな描写ならかなりイメージしやすいのですが。
『ル・マル・デュ・ペイ』を弾いていた、っていうのがまさにまさにシロっぽさをあらわしているなあと感じます。
ジュネーヴの鐘
がらりと変わってあたたかい曲ですが、ずーっと優しい旋律が続くわけでもなく。好きな一曲です。
第2年/イタリア
絵画や詩などに詳しい方なら、曲のタイトルから元になる(リストがインスピレーションを受けた)芸術作品がイメージできて、より楽しめるのではないかと思います。残念ながらわたしはまるで詳しくないのですが。
婚礼
婚礼というタイトルからは華やかで幸せそうなイメージが浮かびますが、ちょっとちがう。けれど落ち着く一曲です。好き。
物思いに沈む人
物思いに沈みすぎな人。といった印象。
サルヴァトール・ローザのカンツォネッタ
第2年の中で、唯一陽気さを感じる一曲かもしれません。
ペトラルカのソネット 第47番
『多崎つくる』の中では、このペトラルカのソネットについて「リストの音楽というよりはどことなく、ベートーヴェンのピアノ・ソナタみたいな格調がある」と評する描写があります。
ペトラルカのソネット 第104番
ペトラルカのソネット 第123番
「ベートーベンのソナタ」というと『悲愴』『月光』『熱情』(いわゆる三大ソナタ)がとっても有名ですが、後期のソナタがたまらなくすきです。漫画『のだめカンタービレ』にはどちらも登場しましたね。
『のだめカンタービレ』の最後のほうでのだめが弾いて、千秋先輩が涙したソナタ
ダンテを読んで(ソナタ風幻想曲)
ダンテの『神曲』の「地獄篇」からインスピレーションを受けて作られた曲、とのこと。「音楽の悪魔」なんて呼ばれる三全音という音程が使われていて、これが地獄っぽさをあらわしています。
リストのお話からおもいっきり離れてしまうのですが…この三全音ってどんな音程なのかというと、ゲゲゲの鬼太郎のオープニング曲を思い浮かべていただくとわかりやすいかもしれません。
ゲッ ゲッ ゲ♪ゲゲのゲー♪ ←ひとつめの♪に対する、ふたつめの♪が三全音です。ちょっと不気味なこの音程、むかーしむかしはかなり嫌われていたらしいです。
その三全音が効果的に使われている一曲。
第2年補遺/ヴェネツィアとナポリ
ゴンドラを漕ぐ女
だいすきなリストの水シリーズ(勝手に命名)。
カンツォーネ
力強いというか重厚というか、そんな印象の一曲です。
タランテラ
「ナポリの舞曲」のことをタランテラというそうです。第2年の中でもアップテンポな一曲。好き。
第3年
第3年の曲は、ちょっと聴きづらいというか、あまり馴染みのない印象を受ける曲が多いかと思います。
アンジェルス!守護天使への祈り
「聴きづらい」というのは、例えばこの曲のように、伴奏がない旋律が続いたりする曲が多いという意味で使っています。聴いていて安心感がないというか…。
オペラを観る方にはイメージしやすいかな?と思うのですが、オペラって、いわゆる歌っぽい歌(アリアっていいます)の部分と、セリフっぽい歌(レチタティーヴォっていいます)の部分があって、この第3年はレチタティーヴォ風の曲が多いのです。
エステ荘の糸杉に 第1番〈悲歌〉
〈悲歌〉というタイトルどおり、とっっても重々しいメロディが長く続く1番2番ですが、通して聴いてみるとうっとりやさしいメロディもあったりします。もし興味があればいちど通して聴いてみてほしいなあ。という曲。
エステ荘の糸杉に 第2番〈悲歌〉
エステ荘の噴水
第3年の中でこの曲だけぽつんと、とっても明るい曲調です。『巡礼の年』の中では最も有名かな?水シリーズ最高傑作!と思っています。
哀れならずや[スント・ラクリメ・レールム](ハンガリーの施法による)
レチタティーヴォ風の、ちょっと落ち着かない印象の曲に戻ります。
葬送行進曲
心を高めよ[スルスム・コルダ]
出だしは第3年の他の曲のようにちょっと重々しい印象がありますが、この曲はなんとなく聴いていて落ち着くのです。
さいごに
小説や漫画や映画などをきっかけに音楽を聴くのって楽しいですよね!素人のかんたんな紹介ではありますが、『巡礼の年』をより楽しむきっかけになれば嬉しいなあと思っています。