村上春樹著『女のいない男たち』に登場する音楽

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村上春樹最新作『女のいない男たち』に登場する音楽のご紹介です。ネタバレはしていませんが、作中の描写に触れている箇所がありますので、ご注意ください。

前書き

ビートルズの『サージェント・ペパーズ』やビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band

今回の作品には、めずらしく長い前書きがあります。その前書きの中に、ふたつの曲が登場しました。

これらの作品を書いているあいだ、僕はビートルズの『サージェント・ペパーズ』やビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』のことを緩く念頭に置いていた。

Pet Sounds

ドライブ・マイ・カー

Drive My Car

ひとつめの短編のタイトルです。

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲

帰り道ではよくベートーヴェンの弦楽四重奏曲を聴いた。
彼がベートーヴェンの弦楽四重奏曲を好むのは、それが基本的に聴き飽きしない音楽であり…

ベートーヴェンの音楽で有名なものといえば、まずはピアノソナタでしょうか。三大ソナタと呼ばれる『悲愴』『月光』『熱情』はもちろんのこと、後期のソナタも「のだめ」のおかげでずいぶん有名になったように思います(さいご、千秋先輩が泣いちゃう曲とか)。

それから、誰もが聴いたことのある『運命』や、年末にお馴染みの『第九』に代表される交響曲など。

対して、室内楽曲である「弦楽四重奏曲」は、ピアノソナタや交響曲と比べると、あまり馴染みがない作品が多いように感じます。

そんな中でも比較的聴きやすいとおもう曲をいくつか、ピックアップしてみました。

弦楽四重奏曲第13番 第2楽章

テンポがとっても速く、とても短い楽章です。かっこいいです。

弦楽四重奏曲第13番 第3楽章

すこしかわいらしい楽章です。いちばん「聴き飽きしない」曲かなと思います。

弦楽四重奏曲第13番 第5楽章

カヴァティーナ(歌謡的な、叙情的な声楽曲)という副題がついています。

(おまけ)弦楽四重奏曲第13番 大フーガ

13番の最終楽章(第6楽章)は、ほんとうはこの「大フーガ」でした。ですが、重々しくて難解な曲であるため、聴く人たちにはちっとも受け入れられず、新たに「第6楽章」となる曲がつくられたそう。

いまではこの旧第6楽章も再び良い評価を受け、新たにつくられた第6楽章(こちらは軽快で聴きやすい曲です)と続けて演奏されたりしています。

弦楽四重奏曲第15番 第3楽章

15番からもひとつ。美しい曲です。

ビーチボーイズやラスカルズやクリーデンス、テンプテーションズ

もっと軽い音楽を聴きたいときには、古いアメリカン・ロックを聴いた。
ビーチ・ボーイズやラスカルズやクリーデンス、テンプテーションズ。

ビーチボーイズの曲はさきほどひとつ登場しましたので、そのほかのアーティストから一曲ずつ選びました。

ラスカルズ Groovin’

クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル Suzie Q

せっかくだからスージーQ。

dj.zwevwdyg.100x100 75クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル

ザ・テンプテーションズ My Girl

イエスタデイ

Yesterday

ふたつめの短編のタイトルです。

僕の知っている限り、ビートルズの『イエスタデイ』に日本語の(それも関西弁の)歌詞をつけた人間は、木樽という男一人しかいない。

ジミ・ヘンドリクス

ジミ・ヘンドリックスの伝記とか、詰め将棋の本とか、『宇宙はどこから生まれたのか』とか…

AmazonのMP3版だと邦題(紫のけむり)になっちゃうんですね

Ob-La-Di, Ob-La-Da

日曜日にはみんなで多摩川べりに行って遊んで、オブラディ・オブラダ……もちろんそういう人生もぜんぜん悪うないと思うよ。しかし人生はそんなつるっとした…

Like Someone In Love

高級ワインの栓が次々に抜かれていた。若い女性ピアニストが『ライク・サムワン・イン・ラブ』を弾いていた。

ビル・エヴァンス Like Someone In Love

ピアニストが弾いていた、という描写ですので、まずはビル・エヴァンス版。

ジョン・コルトレーン Like Someone In Love

ジョン・コルトレーンのサックス演奏版。

エラ・フィッツジェラルド Like Someone In Love

エラ・フィッツジェラルドの歌もよいです。

独立器官

シューベルトやメンデルスゾーンの室内楽

週末にはアマチュアのチェリストとして、友人たちとシューベルトやメンデルスゾーンの室内楽を演奏しました。

ピアノ五重奏曲 第4楽章

ピアノ五重奏曲の中から、音楽の授業などでお馴染みの『鱒(ます)』のメロディが使われている楽章。

メンデルスゾーン(アルテミス・カルテット版)

今年で結成25周年を迎える四重奏団「アルテミス・カルテット」の、最新アルバム(来日記念盤)をご紹介します。 CDリリース予定日は2014年5月21日です。

バリー・ホワイト

低く滑らかな声で彼は話した。その声は僕にバリー・ホワイトの音楽を思い出させた。

マイ・ウェイ

芳醇なピノ・ノワールのグラスを傾け、居間のグランド・ピアノで『マイ・ウェイ』を弾き…

シェエラザード

この短編には音楽が登場しませんでした。CDやコンポなどの描写自体は何度かあるのですが。

ところで、作中に登場した「やつめうなぎ」って、なかなか奇妙な姿をしているのですね。調べてしまった。

木野

アート・テイタム

よくアート・テイタムのソロ・ピアノのレコードをかけた。その音楽は今の彼の気持ちに似合っていた。

ジャズ・ピアノの神様と呼ばれるアート・テイタムの演奏から、ジャズのスタンダートナンバー『Tea for two』を選びました。邦題は「二人でお茶を」。

『ジェリコの戦い』がはいっているコールマン・ホーキンズのLP

木野はスツールに腰掛けて『ジェリコの戦い』がはいっているコールマン・ホーキンズのLPを聴いた。メジャー・ホリーのベース・ソロが素晴らしい。

LPではなくてCDですが、『ジェリコの戦い』は、2曲目の『Joshua Fit the Battle of Jericho』です。
3曲目の『Mack the Knife』もとても有名な一曲。

ビリー・ホリデー Georgia on my mind

木野は『ジョージア・オン・マイ・マインド』の入った古いコロンビアのLPをターンテーブルに載せた。そして二人で黙ってそのレコードを聴いた。

エロール・ガーナーの『ムーングロウ』、バディー・デフランコの『言い出しかねて』

女は時間をかけてブランデーを三杯飲み、更に何枚かの古いレコードを聴いた。エロール・ガーナーの『ムーングロウ』、バディー・デフランコの『言い出しかねて』。

Moonglow

I can’t get started

オリジナルのタイトルは『I can’t get started』です。

テディ・ウィルソン、ヴィック・ディッケンソン、バック・クレイトン、そういう古風なジャズ

テディ・ウィルソン

これで音楽が聴ければ言うことはないのだがな、と彼は思った。テディ・ウィルソン、ヴィック・ディッケンソン、バック・クレイトン、そういう古風なジャズがときどき無性に聴きたくなった。

さきほどのアート・テイタムと同じ曲『Tea for Two』です。聴き比べるのも楽しいかとおもいます。

ヴィック・ディッケンソン

バック・クレイトン

mzi.oegtebgr.100x100 75Buck Clayton, Michel Pilet, Henri Chaix, Isla Eckinger & Wallace Bishop

マイ・ロマンス:ベン・ウェブスター

ベン・ウェブスターの吹く『マイ・ロマンス』の美しいソロを思った(途中二度スクラッチが入る。ぷつん・ぷつんと)。
mzi.hjwheinx.100x100 75Ben Webster with Arnvid Meyer’s Combo

女のいない男たち

クリフォード・ブラウン

その世界では音の響き方が違う。喉の渇き方が違う。髭の伸び方も違う。スターバックスの店員の対応も違う。クリフォード・ブラウンのソロも違うものに聞こえる。

エレベーター音楽

僕がエムについて今でもいちばんよく覚えているのは、彼女が『エレベーター音楽』を愛していたことだ。
よくエレベーターの中で流れているような音楽―つまりパーシー・フェイスだとか、マントヴァーニだとか、レイモンド・ルフェーブルだとか、フランク・チャックスフィールドだとか、フランシス・レイだとか、101ストリングズだとか、ポール・モーリアだとか、ビリー・ヴォーンだとかその手の音楽だ。

エレベーター音楽」というのは要するにヒーリング・ミュージックのようなものや、ムード音楽に分類されるものなどなのだと思います。

作中では「無害な音楽」とか「罪のない音楽」などと表現されているところをみると、少なくともこの語り手は「エレベーター音楽」を好んではいない様子。

パーシー・フェイス

いったい何度パーシー・フェイスの『夏の日の恋』を聴いたことだろう。こんなことを打ち明けるのは恥ずかしいが、今でも僕はその曲を聴くと…

マントヴァーニ

mzi.txpdzoov.100x100 75マントヴァーニ・オーケストラ & スタンリー・ブラック

レーモン・ルフェーブル・オーケストラ

デパートの拡声装置からはレーモン・ルフェーブル・オーケストラが流れ…

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』でも登場していたバンドです。クラシック音楽のカヴァー曲が特に良いです。特に、モーツァルトの「交響曲第40番」(このCDの2枚め4曲目)。

フランク・チャックスフィールド

フランシス・レイ

僕らはあちこちをほとんどあてもなくドライブし、そのあいだ彼女はフランシス・レイの『白い恋人たち』にあわせて静かに唇を動かしていた。

101ストリングズ

101台の弦楽器を中心とした大人数のオーケストラです。『ねじまき鳥クロニクル』にも登場したはず。

mzi.dqjikaoy.100x100 75101ストリングス・オーケストラ

ポール・モーリア

イージーリスニングと言えばこのひと。

ビリー・ヴォーン

『デレク・アンド・ドミノズ』とか、オーティス・レディングとか、ドアーズとか

僕は一人で車を運転するときは、よくロックかブルーズを聴いた。『デレク・アンド・ドミノズ』とか、オーティス・レディングとか、ドアーズとか。

デレク・アンド・ドミノズ

エリック・クラプトンが在籍していたロックバンド。

オーティス・レディング

ドアーズ

ドアーズ(とジム・モリソン)は、エッセイを含む村上春樹作品の中でも、特に多く登場するように思います。

この曲の邦題は『ハートに火をつけて』。

ムーン・リヴァー:ヘンリー・マンシーニ

僕はヘンリー・マンシーニの指揮する『ムーン・リヴァー』を聴きながら、そのソフトな三拍子にあわせて、エムの背中を…
mzi.ayppeeaq.100x100 75ヘンリー・マンシーニ

ゴリラズとか、ブラック・アンド・ピーズとか

もちろんそこには、フランシス・レイも101ストリングスも入っていない。ゴリラズとか、ブラック・アンド・ピーズとかが入っている。

ゴリラズ

こういったバンドが登場するのは珍しいなあと思いました。

ブラック・アンド・ピーズ

ジェファーソン・エアプレイン

その仕切りのない、広々とした音楽に優しく包まれているといいのだけれど。ジェファーソン・エアプレインなんかが流れてないといい(神様はたぶんそこまで残酷ではなかろう。僕はそう期待する)。

とっても長くなってしまいました。読書のおともにぜひ、作中の音楽を聴いてみてください。